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Author:きたあかり
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10-31(金)

「食堂かたつむり」 小川糸




料理の神様、お願いします--衝撃的な失恋のあと、倫子は故郷に戻り実家の離れで食堂を始める。ある噂とともに店は評判になるが。




<感想> ★★★★★

おそらく今年前半で最も話題になっていた一冊だと思います。

関東ローカルで土曜の朝にオンエアされているTV番組の「BOOKナビ」で紹

介されたのがきっかけのようです。 

ベストセラーや話題作などと言われると手を伸ばしたいという気持ちの一方で、

そんな流行りもの、ワシは読まん!!!

という天邪鬼な思いが頭を持ち上げてきます。 


さて、結果から言うなら狭量な偏屈で損をするのは自分自身です。

アマ○ンのカスタマーレビューをみるとかなり辛辣なコメントがあります。 それ

らすべてを否定するつもりはありませんが、それを差し引いても余りあるチカラ

がこの作品にはあるような気がします。


本書は料理小説としての側面を併せ持っていますが、そのチカラは素材のもつ

チカラです。 食べるという基本的な行為。 なんやかや言って人間の奥深くに

在る親子の確執と情愛。 作家は文字通りその素材を料理して読者の目の前に

出すわけですが、必要以上の調理をされていない本書は本来の味を損ねていま

せん。 そのあたりがストレートに響いてくるのだと思います。


人は、いつでも澄んだ気持ちでなんかいられない、と思う。

みんな、濁り具合の程度の差こそあれ、心の中を満たしているのは

泥水だ。


=中略=

だから私はその泥水をきれいに保つため、なるべく静かにしていよう

と決めた。 水の中で魚が動き回れば濁った泥水になってしまうけど、

心を穏やかにしていれば、泥は下に沈み、上の方はきれいな水になる。 

私はきれいな水でいたかった。



ここで泥に喩えられているのは、主人公とその母親との確執です。

著者が用意した、この確執の着地点で救われたと感じる読者は多いと思いま

す。 ふくろう爺・・・・(泣)


本書の舞台になる季節は晩秋から春先です。 天邪鬼諸兄、諸姉には今の季

節お読みになることをオススメいたします。 加えて瀬尾まいこさんの『天国は

まだ遠く』
をお読みになって、嫌いじゃないけどちょっと物足りないとお感じにな

った方にもオススメいたします。

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10-28(火)

「漢方小説」 中島たい子


川波みのり、31歳、脚本家、独身。胃がひっくり返ったようになるのに、眠れないのに、病院に行って検査をすると『特に異状なし』。あのつらさは何?昔の男が結婚したショックのせい?それとも仕事のストレス?最終的にたどりついた東洋医学で、生薬の香りに包まれながら、みのりが得たものは。心と体、そして人間関係のバランスを、軽妙なテンポで書き綴る、第28回すばる文学賞受賞作品。


<感想> ★★★★☆

あちこちの読書系サイトで感想を拝見しました。

正直ってドロドロフェチの私には物足らないかなぁ・・と思って手に取りまし

たが、実によくできた小説でした。 主人公は三十代に突入したばかりの

独身女性。 私自身は三十代の独身女性だった経験がないのでなんとも

言えませんが、その背景や心理状態をリアルに描いているのではないか

と思います。 そんな彼女を描く文章はいっけん軽そうに思えますが、しっ

かり根っこが生えていて、ある種の読み応えさえ感じます。 


タイトルからもわかる通り、体調を崩した主人公が東洋医学(漢方)の世界

にふれて心身の元気を取り戻していくという話ですが、この小説自体にも

漢方の持つ不思議な力が秘められているような気がします。 私自身も読

み終わったあとはゆったりした気分になりました。 


漢方に関する薀蓄もちりばめられているのでそれなりにお利口にもなれます。 

現在不定愁訴に悩まされている方、西洋医学こそが最上の科学だとお思い

の方、「自然と健康を科学する」ツムラ(旧津村順天堂)への就職をお考え

の方などにオススメいたします。

 
10-27(月)

「メドゥサ、鏡をごらん」 井上夢人



作家・藤井陽造は、コンクリートを満たした木枠の中に全身を塗り固めて絶命していた。傍らには自筆で「メドゥサを見た」と記したメモが遺されており、娘とその婚約者は、異様な死の謎を解くため、藤井が死ぬ直前に書いていた原稿を探し始める。だが、何かがおかしい。次第に高まる恐怖。そして連鎖する怪死。



<感想> ★★★★☆

お読みになった方の感想を拝見して手に取ってみました。

装丁から想像がつくと思いますがすげぇ~怖い作品です。

ひとくちにホラーといっても、スプラッターから最近流行のファンタジー風味

のものまで様々です。 翻訳モノや海外の映画でも優れているホラーは存

在するわけですが、恐怖という感情は宗教観や土着性の上に立脚してい

るなのではないかと思います。 S・キングもそこそこ怖いんだけどやっぱり

『りんぐ』の方が怖いですよね。


さて、本書はある小説家が奇妙な自殺を遂げたところから話がはじまります。

狂言回しを担っている主人公が細い糸を手繰り寄せながら、小説家の死の

真相に迫る過程はスリリングで、そこには悲しく恐ろしい物語が秘められて

います。 ノンストップ長編という売り文句がありますが、まさしくその通りで井

上夢人さんの巧さを堪能できます。


ただ、賛否両論といわれるラストに関して私は否派です。 

岡嶋二人名義で書かれた『クラインの壺』のオチに似ていますが、残念なが

らその差は歴然です。 
 ←ネタばれの恐れがあるので反転表示します。

井上夢人さんは「新本格」などといわれますが、個人的にはそのレッテルが

読者層を広げる妨げになっているのではないかと思います。 

単純に怖ければいいと思うんだけど・・・。

とは言うもののそんなオチを差し引いても面白い小説です。

読み始めると止まらなくなります。 できれば週末の午後から読みはじめるこ

とをオススメします。





 
10-26(日)

「ミッド・ナイトコール」 田口ランディ


大好きな男友達としこたま飲んだ夜、雨の中を一人マンションに帰された加津子は、猛烈な怒りを押さえられないでいた。やりきれない傷みとさびしさにまかせ、過去につきあった男たちに次々と無言電話をかける加津子。やがて一年前に婚約解消された高木につながり…(「アカシヤの雨に打たれて」)。自信をもって誰かを好きになるために、本当の自分を探している女性たちを描いた恋愛小説集。


<感想> ★★★☆☆

本書は恋愛小説9編を収めた田口ランディさんの短編集です。

2000年の上梓ですが、初期作品で見うけられたトンガリのない純然たる

恋愛小説です。 


そのあたりを読みやすいと感じるか、物足りないかと感じるかは読者しだい

ですが、個人的にはもうちょっと「らしさ」が欲しかったような気がします。


「らしさ」って何?問われれば「怪しさ」とお答えしておきます。

最後の『電話を待ちながら』あたりはかなり「怪しい」んですが・・・


 
10-24(金)

「遠い日の戦争」 吉村昭



終戦の詔勅が下った昭和20年8月15日、福岡の西部軍司令部の防空情報主任・清原琢也は米軍捕虜を処刑した。 無差別空襲により家族を失った日本人すべての意志の代行であるとも彼には思えた。 だが、敗戦はすべての価値観を逆転させた。 戦犯として断罪され、日本人の恥と罵られる中、暗く怯えに満ちた戦後の逃亡の日々が始る。


<感想> ★★★★★

来月、「私は貝になりたい」という映画が公開になります。 戦時中、上官の

命令によって行った捕虜への虐待により戦争犯罪人として裁かれ、絞首刑

になってしまう理髪師を中居正広さんが演じます。 


さて、戦勝国が敗戦国を一方的に裁く戦争犯罪に関しては、今なお論議が

あるようなので詳しく言及しませんが、敗戦後極東軍事裁判でA級戦犯とし

て訴追を受けたのは27人。 そのうち7人が絞首刑になっています。 しか

し、罪状の異なるBC級戦犯においては正確な訴追人数は把握されていな

いものの実に1,000人以上が死刑判決を受けた(減刑者を含む)とされてい

ます。 その中には上官の命令を忠実に実行しただけの下士官や兵士など

も含まれ、終戦後平穏な日々を送っていた一般人である彼らが、何の前触

れもなく逮捕され絞首刑になってしまうという事例がいくつもあったようです。 


この作品の主人公は年若い将校です。 当然ながら戦時中エリートだった

彼がどのような経緯や背景で捕虜を虐殺してしまったのか?敗戦後一転し

て戦犯として逃げ回らなくてならない主人公の葛藤などが見事に描かれてい

ます。 

このジャンルでは柴田錬三郎賞を受賞した帚木蓬生さんの『逃亡』という作

品が有名です。 逃亡劇というエンターテイメント性では帚木蓬生さんの方が

優れていますが、敗戦時18歳だった著者の経験や心理を色濃く反映した文

章は説得力という点で抜きん出ているように思います。 


敗戦後、日本は民主化され奇跡の経済成長を遂げます。 その延長線上で

生きている私はそれを否定するつもりはありませんが、戦争で負けるという

ことはどういうことなのか?
そんなことを考えさせてくれる一冊です。







 
10-21(火)

久しぶりのお買い物


給料前だというのに私の財布にはそこそこお金が残っています。

よ~く考えたら、10月に入ってから本を一冊も買っていませんでした。

出費といえば、お昼ごはん(だいたい350円~500円)のみ。

食べ物以外で買ったものといえばタバコ(290円)ぐらいです。

というワケで、ひさしぶりにブック○フに行ってきました。

買ったのは5冊。


         


『遠い日の戦争』 吉村昭


T-ポイントが溜まっていたので、5冊で911円でした。

明日のお昼は、味噌チャーシュー(860円)でも食べようかな・・・

 
10-14(火)

「ニート」 絲山秋子



もちろん人に対してどうでもいいなんて言うのはとんでもなく失礼なことだけれど、どうでもいいって言ったら、この世の中本当に何もかもどうでもいいわけで、それがキミの思想そのものでもあった(「ニート」より)。現代人の孤独と寂寥、人間関係の揺らぎを描き出す傑作短篇集。



<感想> ★★★☆☆

本書は著者を思わせる小説家と男性ニートの関係を描く表題作と、その連

作一編。 他に4つの短編が収められています。 


さて、『袋小路の男』でブレイクした絲山秋子さんですが、男女の距離感を描

いた作品が多いように思います。 表題作も基本的には同じ路線で、経済的

に優位に立っている主人公と男性ニートの距離感の描き方が秀逸です。 個

人的には婚約者を亡くした女友達を描く『ベル・エポック』と遠距離恋愛中の男

性を主人公にした『へたれ』の方が好みですが、表題作は絲山秋子さんの真

骨頂と言えます。 


最後の『愛なんかいらねー』は要注意です。 

文章の巧い作家がこういうジャンルを手がけると読者はキビしいです。 

どうでもいいんだけど絲山さんはファブリーズの消臭能力を過信しすぎているよ

うに思います。 ご飯を食べる前には読まないように・・とだけ申し添えておき

ます。(汗)




 
10-11(土)

「ララピポ」 奥田英朗


みんな、しあわせなのだろうか。「考えるだけ無駄か。どの道人生は続いていくのだ。明日も、あさっても」。対人恐怖症のフリーライター、NOと言えないカラオケボックス店員、AV・風俗専門のスカウトマン、デブ専×DVD女優のテープリライター他、格差社会をも笑い飛ばす六人の、どうにもならない日常を活写する群像長篇。下流文学の白眉。



<感想> ★★★★☆

単行本の装丁がちょいとお下品で話題になった作品の文庫です。

官能小説だとかエッチだ・・などという評判でした。 エッチなモノに目のない

私ですが、予めそうであると謳われてしまうと引いてしまうものです。 文庫

が出たので読んでみました。


さて、結果から言うなら、連作短編の本書はそれほどエッチではありません。

(あくまで個人的には・・です。汗)社会の底辺に位置する主人公達を横糸で

繋びつけるという構成は劇団ひとりさんの『陰日向に咲く』に似ています。 

根っからの悪人ではないけど、内に抱える弱さが命取りになって転落してし

まう。 そんな様子をユーモラスに描いています。 しかし、主人公と同じ弱さ

を自分も抱えているかも・・・なんて考えてしまうと笑うに笑えません。


直木賞を受賞した伊良部シリーズとは異なる路線ですが、『最悪』を面白いと

感じた方なら楽しめると思います。


ちなみにタイトルは "a lot of a people" の音声表記です。 たしかにララピポ

と聞こえます。

 
 
10-10(金)

「決断」 警察小説競作  横山秀夫他


偽ドル札を掴まされた男と強面刑事の騙し合い(「昔なじみ」)。新任の駐在が嗅ぎつけた危険な匂い(「逸脱」)。秘密を背負った警官が知る寂しい犯罪者(「大根の花」)。イカれた奴らとパトカーの追跡劇(「闇を駆け抜けろ」)。自白の裏側に迫る孤独な刑事(「ストックホルムの埋み火」)。誤認逮捕の悪夢に苛まれるベテラン刑事(「暗箱」)。組織と個人の間で揺れながら真実を追い続ける警察官の凄みを描く全六篇。


<感想> ★★★☆☆

本書は警察小説アンソロジーです。

収められている作品は・・・・・

『昔なじみ』逢坂剛。 『逸脱』佐々木譲。 『大根の花』柴田よしき。

『闇を駆け抜けろ』戸梶圭太。 『ストックホルムの埋み火』貫井徳郎。

『暗箱』横山秀夫。


6作の中ではなんと言っても横山秀夫さんの『暗箱』が秀逸です。 個人的に

横山作品に共通するラストの甘さが気になっていましたが、この短編に関して

はその甘さで読者は救われます。


もう一つ印象に残ったのは貫井徳郎さんの『ストックホルムの埋み火』。 貫

井さんは本格ジャンルの作家で、読者もそれを求めているんだと思いますが、

この作品でも心に闇を抱えたキャラクターの描き方が際立っています。 こう

いう事を書くと本格ファンからお叱りを受けそうですが、ぜひそれ以外のジャ

ンルも手がけて欲しいと思います。


電車移動の際に何か読むものを・・・とお考えの方にオススメします。

乗り越しをなさらないようにご注意くださいませ。(笑)


 
10-03(金)

「あゝ野麦峠―ある製糸工女哀史」 山本茂実


"ああ飛騨が見える・・・。" 厳しい冬将軍があたりを蔽い尽くそうとする頃、野麦峠の頂上でみねという名の製糸女工が、小さく呟きながら死んだ。 明治政府が強力に推し進めていた、富国強兵政策を底辺で担っていたのは、無数の女工たちであった。 これは彼女たちの青春に捧げる哀歌であるとともに、数百の聞き書きによって浮き彫りにした素顔の日本近代史である。


<感想> ★★★★★

この作品のタイトルを聞いて、女優の大竹しのぶさんを思い浮かべる方も多い

と思います。 一億総中流と言われ、我々日本人が繁栄を享受していた79年

に公開された同名映画は、大ヒットを記録しました。 

大竹さんが演じた政井みねは実在の人物ですが、みねは特別なヒロインでは

なく、日本の絹が世界市場の34%を占めていた時代に居合わせた製糸工女

のひとりに過ぎません。 彼女と同じ運命を辿った女性が何百、何千といたと

いう事実が胸を打ちます。

映画の公開当時、中学生だった私は繁栄ニッポンの礎となった人たちの物語

という印象を強く持ちましたが、『蟹工船』がベストセラーになる現代においては

その受け止め方も変わってくるかもしれません。 


さて、映画ではサブタイトルにもなっている哀史の部分が強調されていますが、

その原作本である本書は多少趣が異なっています。 

初版(68年)当時、60~90歳だったかつての女工たち380名から聴き取った彼

女たちの悲劇はもちろんですが、その取材はそれと関連する時代背景や彼女

たちを雇っていた経営者側にまで至ります。 


これは従来の女工哀史といわれるものにもいえることであるが、青くさい

文学青年発想のセンチメンタルはかえって有害である。



本書の主眼は製糸工女の悲劇ではなく、それを触媒として近代日本の姿を描

くことにあります。

雪の野麦峠を命からがら越えて待っていたものは、奴隷制度と違わぬ扱い。 

あるものは耐えかねて諏訪湖に身を投げ、あるものは劣悪な労働環境が要因

となり命を落とす。 しかし、驚いたことに著者が取材をしたかつての工女たち

の9割が製糸工女として出稼ぎに出てよかったと答えています。 彼女たちにそ

う言わしめるものは何なのか? そして、彼女たちが命がけで紡いだ絹は何に

化けたのか? それは近代日本の出発点と着地点を明確に示しているように

思います。 


圧倒的な取材力と客観的な資料、製糸工女達の持つ独特の物語性。 そして著

者の語り口。 私の思いつく限りでは最高のノンフィクション作品です。 

大竹しのぶさんの工女姿に涙した方はもちろん、下層社会からみた近代史に興

味があると言う方にオススメいたします。 

 
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