プロフィール

きたあかり

Author:きたあかり
文芸書中心の読書日記です。
読書傾向はフリーエリアの円グラフを見てください。 サイトのご案内

フリーエリア
ひとこと掲示板
FC2カウンター
検索フォーム
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ブロとも申請フォーム
QRコード
QR

-----(--)

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 
03-28(水)

「紙の月」  角田光代






【内容情報】(「BOOK」データベースより)
わかば銀行から契約社員・梅澤梨花(41歳)が1億円を横領した。梨花は海外へ逃亡する。彼女は、果たして逃げ切れるのか?あまりにもスリリングで狂おしいまでに切実な、角田光代、待望の長篇小説。





<感想> ★★★★★

本書は今月出た角田光代さんの最新刊です。 
あらすじを読む限りでは一億円を横領した女の逃避行的なイメージを抱きますが、メインストーリーは横領から発覚までです。 そこに主人公と過去に関わっていた同世代の男女3人を配して、その深層心理を描く作品です。


さて、一年半ぶりの長編である本書は角田毒炸裂しまくりです。 まじめで正義感の強い主婦である主人公の梨花が、横領にまで至るまでの描き方がハンパではありません。 人が金の奴隷になって堕ちていくさまがヨーシャなく描かれています。 


この作品の評価は読者がこの主人公を客観的にイタイ女(他人事)と読むのか?激しく感情移入をして読むのか?がポイントになってくるわけですが、ここで効果的な役割を担っているのが同世代の3人です。 私たちは一億円を横領するまでには至らなくても、主人公と似た性質を持っている3人のうちの誰かと共鳴する部分を持ち合わせている筈です。 


この3人を触媒として読者を限りなく主人公に近づける手法は見事です。 もちろん、主婦である彼女たちの抑圧された心理を描くさまは言うまでもありません。 


私が特に強く感じたのは彼女たちの考え方や行動パターンのリアルさです。  ただ、それはどの世代においても共通のものではありません。 社会に出る寸前のタイミングで金銭の持つ力の前にひれ伏し、子供が手を離れる頃にはアラフォーなどと持ち上げられて商業主義のターゲットにされている。 私も含めて、そんな時代を生きてきた読者にとって、この物語とてつもなく怖いはずです。


真新しい石鹸のような、高校生の頃の梨花の笑顔が自然に思い浮かぶ。 りかちゃん。 木綿子はその笑顔に向けて問いかける。 あなたは何を買ったの?何を手に入れようとしたの?その問いは、いつにまにか木綿子に向けられている。 私は何のために節約してきたの。 なんのために貯蓄しようとしているの。 それで何を得るつもりなの。


長編前作の『ツリーハウス』でちょっと違うかも・・・・と思われた角田ファンに強くおススメします。 角田毒を思う存分ご堪能くださいませ。(笑)


余談ですが、タイトルはJAZZスタンダードの”It's Only a Paper Moon”から来てると思います。  梨花の心理をよく表していて秀逸です。

Say, its only a paper moon
Sailing over a cardboard sea
But it wouldn't be make-believe
If you believed in me ・・・・・・


そうよ、ただの紙のお月様
厚紙の海を帆走してゆく
でも、見せかけのものにはならないわ
あなたが私を信じてくれているなら・・・・・








スポンサーサイト
 
03-26(月)

「サクリファイス」 近藤史恵




【内容情報】(「BOOK」データベースより)
ぼくに与えられた使命、それは勝利のためにエースに尽くすことー。陸上選手から自転車競技に転じた白石誓は、プロのロードレースチームに所属し、各地を転戦していた。そしてヨーロッパ遠征中、悲劇に遭遇する。アシストとしてのプライド、ライバルたちとの駆け引き。かつての恋人との再会、胸に刻印された死。青春小説とサスペンスが奇跡的な融合を遂げた!大藪春彦賞受賞作。



<感想> ★★★★★

あちこちの読書系ブログにお邪魔していますが、ベストセラーには手を出さないという方が少なからずいらっしゃいます。 基本的に私も同じ考えですが、その性癖のおかげで大損をしているような気分にさせられる作品と出会うことがあります。
私にとって、本書はそのような作品でした。


さて、本書が扱っているのはロードレースという競技です。 世界的な大会はツールドフランスで、その名前ぐらいは聞いたことがあるかもしれません。 ただ日本国内においてははマイナースポーツと位置づけられています。 


ともすれば、そのルールさえ知られていないスポーツを俎上に載せるということは作品のウィークポイントになるのではないかと思いがちですが、どうやら近藤史恵という作家にはそれをものともしない筆力が備わっているようです。 私は圧倒されました。


ロードレースの特性とプロスポーツの厳しさ。 陸上競技からロードレースに転向した主人公の心理描写。 サスペンスの要素。 あたかも主人公達と一緒にペダルを漕いでいるような疾走感。 加えて全編に張り巡らされた臨場感と緊張感の糸。 
そして、それが切れる瞬間に訪れるカタルシス。


本当によくできた作品で120点です。 
ベストセラーなんて万人向けする作品はつまらないはずとお考えの方に強くおススメします。 ホントに猛プッシュです。(笑)


以下は続編です。

      


 
03-23(金)

「冷血」 T・カポーティ (佐々田雅子訳)



【内容情報】(「BOOK」データベースより)
カンザス州の片田舎で起きた一家4人惨殺事件。被害者は皆ロープで縛られ、至近距離から散弾銃で射殺されていた。このあまりにも惨い犯行に、著者は5年余りの歳月を費やして綿密な取材を遂行。そして犯人2名が絞首刑に処せられるまでを見届けた。捜査の手法、犯罪者の心理、死刑制度の是非、そして取材者のモラルー。様々な物議をかもした、衝撃のノンフィクション・ノヴェル。



<感想> ★★★★★

本書は1959年に実際に発生した殺人事件を作者が徹底的に取材したノンフィクション作品です。 1965年に出版され世界中でベストセラーになりました。 出版からすでに半世紀近く経っていますが、今なお新しい読者を獲得しつづけている名作中の名作です。


そんな名作中の名作ですが、恥ずかしながら私は3回チャレンジして3回挫折しています。 私が何ゆえ挫折してしまったかと言えば、頁全体を埋め尽くすやたらと小さい活字と、ちょっとダルい冒頭。 この二つの要因が高い壁となって私の前に立ちはだかってしまったというわけです。 今回は05年に出た新訳で4度目のチャレンジに臨みました。


さて、一頁を開いてみると龍口直太郎訳との大きな違いに気がつきます。 活字が大きくなって、行間スペースもそれなりに取られています。 相変わらず冒頭はちょっとダルダルですが、文章が多少平易になったせいか頁をめくる手が止まることはありませんでした。 そして話が静から動に変わる第二章へ。 ここからラストまでいっき読みでした。 


内容に関しては、私が下手な文章を綴るまでもありません。 ひとことつけ加えるなら事件の衝撃度はもちろんですが、加害者の一人に感情移入しすぎたと言われるT・カポーティーの苦悩のようなものを読み取ることができれば、読者にとっては忘れえぬ作品になり得ると思います。


翻訳には賞味期限があると書いたのは村上春樹さんですが、今回はそれを強く感じました。 新しい訳で本書を読む機会を与えてくれた佐々田雅子さんに感謝です。




 
03-20(火)

「終わらざる夏」  浅田次郎

  



内容(「BOOK」データベースより)第二次大戦末期。「届くはずのない」赤紙が、彼を北へと連れ去った―。北の孤島の「知られざる戦い」。あの戦いは何だったのか。着想から三十年、著者渾身の戦争文学。




<感想> ★★★★★

1945年(昭和20)8月15日。 日本は連合軍に対して無条件降伏をしました。 わが国は文字通り焦土と化しましたが、戦時中も戦闘が行われることなく、唯一軍隊が無傷で残っていたところがあります。 それが、当時日本の領土だった占守島(下地図参照)です。 無条件降伏後、この島に駐屯していた旧日本軍は武装解除に向けて動き出しますが、突如ソ連軍が上陸し交戦。 現地の将兵は孤立無援の戦いを強いられます。 世に言う占守島の戦いです。 本書は今まで語られることの少なかった占守島の戦いを軸に据えて、日本人それぞれの終戦を描く長編作品です。


さて、数ある文芸作品の中には、その作家しか描きなえない作品というものがあります。 本書はそれに数えられる作品だと思います。 まずは、終戦間際にさまざまな場所に配した数多くの登場人物たちを丹念に描きながら、それを線で結びつけながら最後の舞台となる占守島の戦いに収斂させていくという作家の力量。 おそらく、これだけの人数のキャラクターを配しながらも読者を混乱させないテクニックを持っている作家はそれほど多くはありません。


そして、もうひとつは軍隊という特殊な組織の仕組みと、そこに関わる人間の心理が如実に描かれている点です。 戦争文学で語られる悲劇はその理不尽さにあります。 それを具現化するには、命を賭してまで命令に従わなくてはならない兵士を描くのが常道です。 しかし、本書ではその理不尽を強要しなくてはならない立場にある人間の心理にまで立ち入っています。 更に言うならそれは、終戦後の占守島に上陸するソ連軍の将兵にまで及んでいます。 そこで一貫しているのは、戦争の罪はどこにあるのか?という問いかけだろうと思います。 


様々な職業を経て、作家になって浅田次郎さんですがそれには自衛官だった時代も含まれます。 インタビューによれば、テーマになっている占守島の戦いは自衛官時代に知ったとのことです、そして当時はまだ第二次世界大戦を経験した上官も数多く在籍していたようです。 その経験と、ここで描かれる軍人達は決して無関係ではないはずです。 


本書は中途半端な戦争小説ではありません。 
並々ならぬ才能をもつ作家浅田次郎。 そして、かつて自衛官だった浅田次郎。 その二つの要素の上に成り立った魂のこもった反戦小説です。 ぜひ、ご一読を。






より大きな地図で 占守島 を表示
 
03-10(土)

「抱擁、あるいはライスには塩を」 江國香織





【内容情報】(「BOOK」データベースより)
三世代、百年にわたる「風変わりな家族」の秘密とはー。東京・神谷町にある、大正期に建築された洋館に暮らす柳島家。ロシア人である祖母の存在、子供を学校にやらない教育方針、叔父や叔母まで同居する環境、さらには四人の子供たちのうち二人が父か母の違う子供という事情が、彼らを周囲から浮いた存在にしていた。





<感想> ★★★★★

本書はハードカバー600頁の長編。 江國作品の中では最長のボリュームです。 


さて、あらすじを読む限りでは時代を追いながら描く大河小説をイメージすると思いますが、本書は語り手が次々と変わる連作短編に近い構成が採られています。 ただ、それぞれの章によって時代が進んだり遡ったりするので、読み始めはかなり戸惑います。 加えて、この家族の特殊性に関しても同様です。 しかし、読み進めていくうちに多すぎる登場人物もすっきり整理されて読みやすくなるし、徐々に明かされていく家族の特殊性は、読者に頁をめくらせる牽引力になっていきます。


特にすごく大きな出来事が起こるわけではありませんが、このヘンな家族の世界に入り込んでしまうとその世界から抜け出すのは容易ではありません。 また。随所に最近の作品では見られない初期作品を彷彿とさせるような描写があって、古くからの読者ならそれを楽しむこともできます。 

夕方と夜のあいだの時間で、図書室は電気をつけないと暗いが、つけてしまうとたちまち空気の中の何かがそこなわれる。 たとえば晩夏(おそなつ)の気配が。 裏庭の木も、昼間ほどくっきり見えないけれど、夜ほど黒々と闇に沈んでもいない。

私はこの一節がツボでしたが、おそらく読者それぞれがツボをみつけることができるのではないかと思います。


ラストに関してはハッピーエンドとも取れるし、その逆と解釈することが出来ると思います。 そのあたりは中途半端という声もあるようですが、少なくとも読者は読みごたえのある作品を読み終えた充実感に浸れることはまちがいありません。 


余談になってしまうかもしれませんが、この本の装丁は見事です。 読み終えたら裏表紙もチェックしてください。 本を閉じるまでが読書です。(笑)

 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。